オンプレミス型在庫管理システムの現状と今後 - クラウド化を迫られる業界への対応戦略

オンプレミス型在庫管理システムの現状と今後 - クラウド化を迫られる業界への対応戦略
ここ数年、クラウド型システムの浸透により、「企業のIT資産はクラウドに移行する」という流れが一般的になってきました。しかし、実は多くの中小企業から、今なお「オンプレミス型である必要がある」という要件が出されています。
ヒアリング案件18社の中でも、複数の企業がオンプレミス型を指定しています。なぜ、今の時代にオンプレミスなのか。その背景には、法令対応、既存ネットワークインフラ、個人情報保護という現実的な理由があります。この記事では、オンプレミス型在庫管理システムが必要な業界と、その対応戦略について詳しく解説します。
なぜ企業はオンプレミス型を指定するのか
理由1:既存システムとの緊密な連携が必要
自動販売機飲料の在庫管理を扱う企業の例を見てみましょう。同社は「オンプレミス型であること」という要件を提示しました。その背景には、現在利用中の業務システム「777」との緊密な連携があります。
777は同社が導入してから長年使用してきた基幹システムです。このシステムはオンプレミスで運用されており、社内ネットワークの中核を担っています。同社の営業、経理、在庫管理、生産管理といったあらゆる業務が、このシステムを経由して実行されています。
新しい在庫管理システムを導入する際、同社にとって最も重要な要件は、777との連携です。単なるAPI連携ではなく、777のデータベースに直接アクセスし、リアルタイムに在庫情報を相互参照できる必要があります。このような緊密な連携は、クラウド型システムでは難しい場合が多いのです。クラウドのセキュリティゲートウェイを経由して、社内の基幹システムのデータベースに直接アクセスすることは、通常セキュリティポリシーで禁止されているからです。
理由2:個人情報保護方針と規制対応
医療機関・介護福祉施設のリネンサービスを提供する企業は、契約上、患者情報や利用者情報を絶対に外部に置かないという要件があります。リネン(医療用寝具)の管理システムには、どの医療機関から何が届いたのか、どの患者に対して使用されたのかといった情報が含まれるのです。
この情報は極めてセンシティブです。法令ではなく契約条件によって、「すべての個人情報は自社内で保管する」ことが要求されているのです。したがって、このシステムのデータをクラウド上に置くことは、契約違反になってしまいます。
同様に、●●●●●対策製品の企画・開発・製造・販売を行う企業でも、開発・設計・製造情報の保管に関する社内方針があり、オンプレミスでの運用が必須とされています。
理由3:通信インフラの制約
全国14拠点のグループ会社への資材提供を行う企業では、各拠点のインターネット通信環境がばらばらです。本社は高速光回線が利用可能ですが、一部の地方拠点では、通信速度が低い環境に置かれています。
クラウド型システムを導入した場合、すべてのクライアント端末がクラウドのサーバーに接続して、データを取得する必要があります。通信が遅い拠点では、システムの操作性が著しく低下する可能性があります。一方、オンプレミス型なら、各拠点にシステムのサーバーを配置することで、ローカル通信で高速に処理することができます。
現在のオンプレミス型システムの課題
クラウド型の方が費用が安いという矛盾
オンプレミス型システムを維持するには、多くのコストが発生します。サーバーハードウェアの購入費、定期的なハードウェア更新、システム管理担当者の人件費、セキュリティ対応費などです。
一方、クラウド型なら、これらのコストはサービス提供企業が負担し、ユーザーは月額費用を支払うだけです。スケールメリットにより、実は通常、クラウド型の方がトータルコストは安くなります。
しかし、オンプレミスが必要な企業にとっては、この経済的なメリットは享受できません。結果として、年間コストが高くなってしまう可能性があります。
導入ベンダーの減少
ここ数年、オンプレミス型システムの開発・保守を行うベンダーの数が減少しています。多くのベンダーがクラウド型への転換を進める中で、オンプレミス案件に対応する企業は限定されてきました。
その結果、オンプレミス型の在庫管理システムを提案できるベンダーが少なくなり、導入企業の選択肢が限定されるという問題が発生しています。
サポート体制の不確実性
オンプレミス型システムを導入した企業の中で、数年後にシステム開発企業が事業廃止になってしまったというケースも存在します。この場合、導入企業は大きな困難に直面します。システムのバージョンアップや保守を誰から受けるのか、新しいバージョンのOSやデータベースへの対応はどうするのか、といった問題が生じるのです。
ハイブリッド戦略:オンプレミス基盤 + クラウド連携
このような課題に対する解決策として、注目されているのが「ハイブリッド戦略」です。
段階的クラウド化の道筋
基本的には、新規システムはクラウド型で導入する。しかし既存のオンプレミス型基幹システムとの連携が必要な場合は、その部分だけオンプレミスで実装し、それ以外の機能はクラウドで提供するというアプローチです。
例えば、自動販売機飲料の企業の場合、現在利用中の業務システム「777」が必要な期間は、オンプレミスで在庫管理システムを構築します。その際に「777」の廃止予定時期を明確にしておき、その時点でシステムをクラウド型に移行するという道筋を事前に決めておくのです。
この戦略により、短期的には既存システムとの緊密な連携が実現され、長期的にはクラウド化のメリットを享受することができます。
マイクロサービス型の設計
新しく導入するシステムを、複数の独立したマイクロサービスの組み合わせとして設計することで、オンプレミスとクラウドを柔軟に組み合わせることができます。
在庫管理の基本機能(入出庫、棚卸)はオンプレミスで実装し、分析・レポート機能はクラウドで提供するといったことが可能になるのです。ユーザーは、複数のシステムを統合的に利用しているという意識を持つことなく、シームレスに機能を活用できます。
セキュアなAPI連携の構築
個人情報保護の要件がある場合、すべてのシステムをオンプレミスに限定する必要はありません。個人情報を含まないデータや処理結果のみをクラウドに置くという選択肢もあります。
例えば、医療機関のリネンサービス管理システムの場合、患者情報や利用者情報を含まない、単純な在庫数や出荷履歴といったデータをクラウド上の分析システムに連携し、経営判断に必要なレポートを生成することができます。セキュアなAPI連携により、個人情報保護要件を満たしながら、クラウドのメリットも享受できるのです。
企業別の推奨戦略
既存基幹システムとの緊密な連携が必要な企業
このタイプの企業には、段階的クラウド化戦略を勧めます。短期的(1年から3年)にはオンプレミスで必要な機能を実装し、既存基幹システムの廃止予定時期を明確にした上で、その時点でシステムをクラウドに移行するという計画を立てるのです。
個人情報保護要件が強い企業
このタイプの企業には、ハイブリッド戦略(オンプレミス + セキュアなクラウド連携)を勧めます。個人情報を含むシステムはオンプレミスに限定し、経営分析や統計レポートといった、個人情報を含まない処理だけをクラウドに移行するアプローチです。
複数拠点で通信インフラがばらばらな企業
このタイプの企業には、エッジコンピューティング戦略を勧めます。各拠点にシステムサーバーのミニ版を配置し、拠点ごとに独立した処理ができるようにします。同時に、拠点間のデータ同期をクラウドを経由して行うことで、全社統合的な管理も実現するのです。
オンプレミス型システムを選ぶ場合の留意点
ベンダー選定の重要性
オンプレミス型システムを導入する際、ベンダーの経営の安定性を十分に確認する必要があります。可能であれば、複数のベンダーから見積もりを取り、同時に各ベンダーの事業継続計画(BCP)を確認することをお勧めします。
導入企業の技術力
オンプレミス型システムは、導入後の管理・保守に、ある程度の技術力を要求されます。システム管理担当者の確保、定期的なバックアップの実行、セキュリティパッチの適用といった業務が発生します。導入前に、これらの管理体制が整備可能かを確認することが重要です。
長期的なクラウド化の計画
どのようなオンプレミス型システムを導入する場合でも、長期的には徐々にクラウド化していく可能性が高いという認識を持つべきです。導入時点で、将来のクラウド移行を想定した設計にしておくことで、後年の乗り換えコストを大幅に削減できます。
まとめ
オンプレミス型システムの需要は、確かに減少傾向にあります。しかし、既存システムとの緊密な連携が必要な企業、個人情報保護要件が強い企業、通信インフラが制約されている企業など、オンプレミスが必須の業界は依然として存在しています。
重要なのは、オンプレミスかクラウドかという二者択一ではなく、企業の現状と将来像に応じた最適なハイブリッド戦略を立てることです。短期的なニーズを満たしながら、長期的にはクラウドのメリットへと段階的に移行していく、柔軟なアプローチが求められているのです。
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